「こんな簡単なこともできないのか」と言う前に――凡事徹底を続ける仕組み

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再発防止の業務を見ていると、ときどき、こんな言葉を耳にします。

「なんでこんな簡単なこともできないんだ」

決められた項目を確認する。作業の結果を記録する。異常があれば報告する。

確かに、一つひとつは基本的なことです。守られなかったことで問題が起きたなら、そう言いたくなる気持ちも分かります。

それでも、私はこの言葉に引っかかります。

一度やるのが簡単なことと、それを欠かさず続けることには、まったく違う難しさがあるからです。

私は、基本的なことを徹底してやり続ける「凡事徹底」は、世の中でもっとも難しいことの一つではないかと思っています。

この記事では、凡事徹底が難しい理由と、再発防止策を続けられるものにするために、対策を求める側が確認したいことを考えます。

目次

一度できることと、続けられることは違う

行為そのものが簡単でも、忙しさや気分に左右されず続けるのは別の仕事です。

毎朝、自分から挨拶をする。メールやチャットで依頼を受けたら、すぐに回答できなくても、受け取ったことと回答の見込みを伝える。

どちらも、特別な知識や技術は必要ありません。それでも、忙しい日にも、気分が乗らない日にも、面倒な依頼が来たときにも、欠かさずできているでしょうか。

少なくとも私は、いつでも完璧にできているとは言い切れません。

もちろん、挨拶と安全に関わる確認では、怠ったときの影響が違います。ただ、行為そのものが簡単でも、継続まで簡単になるわけではありません。その難しさを想像する手がかりは、私たち自身の日常にもあります。

組織の凡事徹底は、個人の習慣より難しい

組織では、一人が一度できるだけでなく、全員が条件の悪い日にも続けることを求められます。

組織で求める凡事徹底は、自分一人の習慣よりも条件が厳しくなります。

組織の凡事徹底に含まれる条件
  • 全員が実行する
  • 毎回、抜けなく実行する
  • 長期間にわたって続ける
  • 担当者が交代しても、人手が足りなくても続ける
  • ほかの仕事が重なったときにも続ける

「確認するだけ」という短い言葉の中に、これだけの条件が隠れています。

守られなかった一回だけを見れば、本人の注意不足に見えるかもしれません。しかし、同じ場所で何度も抜けるなら、手順の置き方、作業量、担当、確認するタイミングにも目を向ける必要があります。

「簡単な作業」と「簡単に続けられる仕組み」は同じではありません。

「前も大丈夫だった」が異常を日常に変える

問題が起きなかった経験の積み重ねは、異常を見過ごす理由になり得ます。

継続を難しくするのは、忙しさだけではありません。何も起きなかったという経験も、基本を守る意味を見えにくくします。

2003年に起きたスペースシャトル・コロンビア号の事故には、この問題を考える手がかりがあります。

コロンビア号は、打ち上げ時に外部燃料タンクから脱落した断熱材が左翼を損傷し、大気圏への再突入時に空中分解しました。

断熱材の脱落は、それ以前にも起きていました。コロンビア号事故調査報告書第1巻は、飛行を重ねるうちに、設計上は起きてはいけない断熱材の脱落が、次第に通常のこと、受け入れられることとして扱われるようになった経緯を指摘しています。

この事故を「基本を怠った」の一言で説明することはできません。技術的な問題と組織的な問題が重なっています。

ただ、ここから考えたいのは、「前も大丈夫だった」という経験が持つ力です。

異常が起きても、結果として無事に終わる。その経験が続くと、異常だったはずの出来事が、いつものことに変わっていきます。

「異常を見過ごさない」という原則は、言葉にすれば簡単です。しかし、何度も無事に終わってきたことを、そのたびに立ち止まって問い直すのは簡単ではありません。

事故の後なら、見過ごしてはいけなかったことがよく見えます。だからこそ、結果を知っている私たちは、当時の判断を「簡単なこと」と呼ぶ前に、その判断が繰り返された背景を見る必要があります。

再発防止策は「今回の一項目」ではなく全体で見る

対策を追加する人が見る一項目と、実行する人が背負う作業全体は違います。

再発防止の日常にも、これに通じる難しさがあります。

確認しても、問題が見つからない日が続く。すると、その確認によって問題を防いでいるのか、確認しなくても問題がなかったのかが分かりにくくなります。

確認にかかる時間は毎回見えます。一方、問題を未然に防いだ価値は、毎回見えるとは限りません。

さらに、再発防止策は積み重なります。

ある問題が起きて、確認項目を一つ増やす。別の問題が起きて、記録を一つ追加する。それぞれの対策には理由があり、単体で見れば小さな負担かもしれません。

しかし、対策を求める人が見ているのは今回の一項目でも、実行する人が引き受けるのは、過去から積み重なった作業の全体です。

「これくらいならできるはず」を一つずつ足した結果、全部を守ることが難しくなっていないか。

この問いは、対策をつくる側が持っておきたいものです。

凡事徹底を求める側が確認する4つの問い

守られていない事実を見つけたら、注意を促す前に、続けられない場所と理由を確かめます。

私は、凡事徹底を求める側にも、徹底すべき仕事があると思います。

再発防止策を見直す4つの問い
  1. 総負担:今回の対策を加えた後、現場が担う確認・記録は全部でどれくらいあるか
  2. 必要性:以前につくった対策の中に、役割を終えたものや重複したものはないか
  3. 作業設計:記憶や注意力に頼る確認を、普段の作業の流れへ組み込めないか
  4. 実態確認:守られていないのは、どの場面で、何と重なり、なぜ難しくなっているのか

対策を増やすなら、作業全体の負担を確認する。不要になったものはやめる。記憶や注意力に頼っている確認は、作業の流れへ組み込めないか考える。

そして、守られていないときには、本人の意識だけを原因にせず、実際の作業を見ます。

実行する側に責任があるように、実行できる条件を整える側にも責任があります。

「徹底してください」と伝えるだけでは、その条件は変わりません。

まとめ|責める前に、続けられる条件を問う

基本が大切だからこそ、続ける難しさも同じくらい真剣に扱う必要があります。

「なんでこんな簡単なこともできないんだ」と言いたくなったときには、こう問い直してみます。

この基本を、忙しい日にも、問題が起きない日々の中でも、続けられるようにするには何が必要だろうか。

一度できることと、全員が毎回続けることは違います。対策を求める側が、累積した負担を見直し、不要なものをやめ、必要な確認を作業へ組み込む。

その問いから、再発防止としてできる仕事が見えてくると思います。

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